日本人の幸せを左右する要素について過去2回お話ししましたが、個人的には「健康」「家族」「お金」の他にもう一つ大事な要素があると考えています。それは私たちが日本本来の価値観を再認識し、「日本人としての誇り」を持つことです。数十ヶ国の大学や研究機関が参加する世界価値観調査によると、残念ながら、日本は「自国民であることに誇りを感じる」人の割合が世界最低レベルです。
大ベストセラー「国家の品格」(2005年)で有名な藤原正彦氏はそうした現状を憂えて、「日本人の誇り」(2011年)で、日本人は今こそ祖国への誇りを取り戻し、日本を日本たらしめてきた価値観を尊重すべきと力説しています。藤原氏は、日本人の心の底流には仏教の慈悲や武士道精神の「惻隠(そくいん)」が息づいていると言います。惻隠とは、弱い者、敗者、虐げられた者への思いやり、言い換えると他人の不幸に対する敏感さです。
幕末から明治時代中期に日本を訪れた欧米人の多くは、日本に対して「貧乏ながら平等で幸せで美しい国」という印象を抱きました。彼らが特に驚いたのは、鍵のない部屋や引き出しから何も盗まれなかったことです。この精神は今も生きており、2011年の東日本大震災の時にも、このような混乱時にはどこでも起きうる略奪が少なく、自分の命を犠牲にして中国人研修生を助けた水産加工会社の専務さんがいたことに世界が驚きました。
藤原氏によると、祖国愛とは自分の国の文化、伝統、自然などをこよなく愛する美しい情緒です。「健康」「家族」「お金」が個人レベルの要素であるのに対し、「国に対する誇り」や「祖国愛」は国民すべてにかかわる要素です。また、祖国愛はより身近な「郷土愛」や「家族愛」にもつながります。長年低迷した日本経済もようやく上向いてきましたが、経済・社会情勢は長い目で見れば良い時もあれば悪い時もあり、厳しい時代がまた訪れても前向きに生きていくには常に心のよりどころとなるアイデンティティが必要だと思います。
【当コラム筆者:カフェバーのマスターとは?】
もともとは金融機関勤務、今はカフェバーのマスターをしています。
私のお店にはお金の悩みを持つ、いろいろなお客様がいらっしゃいます。
いつもお店でお客様にアドバイスしていることを皆さんにも直接、お伝えしたくて、このコラムを始めました。
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